12.31.2016

スキャナー・ダークリー

 しかし、現実のドナの感触は、まだ胸のなかにたゆとうていた。まだ残っていた。これ
からの人生で、ドナのいない長い年月、彼女に会えず、彼女からの連絡もなく、生きてい
るのか、幸福なのか、それとも死んでいるのか、そんなニュースをなにひとつ知ることが
できなくても、この感触は自分の胸のなかに封印をされたまま残り、けっして消えること
はないだろう。この手の感触だけは。